本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~以下犯上的書癡~為了成為圖書管理員而不擇手段~
作者:香月美夜
第一部兵士の娘 石板GET!第一部士兵的女兒 獲得石板!
原文連結 冬支度で何より大事なのは食料だ。 過冬準備中比什麼都還重要的是食物啊。
日本と違って、年中無休で開いているスーパーがあるわけではない。採れる野菜もほとんどなくなって、市場が立つことさえ、天候によってはどうなるかわからない。飢え死にしたくなければ、事前準備は必須だ。 與日本不同,並非有著全年無休都開門的超市。採集野菜也幾乎不可能,連市場開市,也取決於天候會怎樣而不知道。若不想餓死的話,事前準備是必須的。
そんなわけで、わたしはただいまドナドナ状態で荷車の上で大量の荷物の間に乗せられている。 因為那種理由,我現在以待宰牛隻的狀態被載在貨車之上的大量行李之間。
真っ暗で夜明けも程遠い時間にわたしを叩き起こす父の言葉が発端だった。 在漆黑而黎明還很遙遠的時間裡將我叫醒的父親的話是開端。
「さぁ、今日は農村だ! 準備はいいか?」「好了,今天是農村啊! 準備好了嗎?」
いいわけがない。 毫無辯解。
何を言っているんだ、と眠い目を擦りながら、わたしは父を睨んだが、母とトゥーリは「もちろんよ」と笑顔で大きく頷いていた。 是在說些什麼呢,一邊揉著睡眼,我一邊注視著父親,母親與圖麗則是用說著「當然了唷」的笑容大大地點著頭。
どうしよう。話の流れについていけないのはわたしだけだ。 怎麼辦呢。跟不上談話走向的只有我了。
「そういえば、マインが熱の時に決まったから、聞いてなかったのかもしれないわね」「這麼說來,因為是在瑪茵發燒的時候決定的,沒聽到也說不定呢」
ポンと手を打った母の言葉に、父もトゥーリも納得してしまったが、わたしは家族内で仲間外れにされているようで、ちょっとばかり面白くない。 對砰地敲手的母親的話,父親與圖麗都理解了,我好像在家族裡被冷落,而稍微有點無趣。
むうっと脹れっ面をしてみるが、家族はさっさと準備を始めてしまい、わたしに構っている余裕など全くないようだ。 試著不爽地鼓起臉,家人匆忙地開始了準備,似乎完全沒有理會我的餘裕。
「とにかく温かくしていないとダメよ。マインは去年も熱を出したんだから!」「總之不保暖的話不行唷。因為瑪茵去年也發燒了!」
バタバタと荷物を下に運びながら、母は着替えるわたしに声を飛ばす。一人で留守番をさせてもらえないので、おとなしくついて行くしかできない。 一邊慌忙雜亂地將行李搬下去,母親一邊對換衣服的我喊話。由於不能讓我一個人看家,就只能老實地跟著去了。
……それにしても、農村に何しに行くんだろう? ……不過,到農村去是要做什麼呢?
最初は体力づくりも兼ねて自分の足で歩くつもりだったが、あまりに遅いあたしの速度に頭を抱えた父がわたしを荷車にペイッと乗せたのだ。 最初是打算做體力訓練也兼用自己的腳走的,但擔憂過於緩慢的我的速度的父親將我啪地裝上了貨車。
大小いくつかの大きさの樽やたくさんの空ビン、紐、布、塩、木材など、今日これから行く農村で必要になるだろう荷物が荷車に乗っている。 大小幾個的大木桶與很多的空瓶、繩子、布、鹽、木材等,在今天之後要去的農村裡應該會需要的行李裝載上了貨車。
あれ? もしかして、わたしって荷車に乗っている中で一番役に立たないお荷物じゃない? 奇怪? 難道,莫非我是乘載在貨車中最派不上用場的行李嗎?
わたしはほとんど余分のスペースがないところに、なるべく小さく収まるようにして座った。 我在幾乎沒有多餘空間的地方,盡量像是小小收納般的坐了下來。
父が前で荷車を引木、母とトゥーリは荷車を後ろから押していく。何と言うか、自分のお荷物具合が際立って、ちょっと切ない気分になった。 父親在前面拉著貨車,母親與圖麗從後面推動著貨車。該怎麼說呢,自己顯著的行李狀態,化成了有點難過的心情。
「ねぇ、母さん。なんで農村なの?」「哎,媽媽。為什麼是農村呢?」
「街にはたくさんの煙が出る燻製小屋がないでしょ? だから、一番近い農村で小屋を借りるのよ」「在城市裡沒有會冒很多煙的煙燻小屋對吧? 所以呢,要在最近的農村借用小屋唷」
「燻製作り? そういえば、この間、市場でお肉いっぱい買ったもんね」「煙燻製作? 這麼說來,最近,在市場買了很多的肉呢」
塩漬けにしたり、湯がいたりして、処理していたような気がするけれど、まだ残っていたってこと? もしかして、結構痛んでない? 大丈夫なの? 雖然說感覺好像做了醃製、又或者燙過,處裡了起來,還有剩下來的嗎? 難道,不是相當迫切嗎? 不要緊嗎?
指折り日数を数えて、どんどん不安になっていくわたしに、母は呆れたような目を向けた。 對曲指算著天數,逐漸變得惶惶不安的我,母親將驚呆般的眼睛轉了過來。
「何言ってるの? 今日は豚肉加工の日よ。農村で豚を二頭買って、みんなで手分けして作って、分け合うんじゃない」「妳在說什麼啊? 今天是豬肉加工日唷。在農村買了兩頭豬,大家分工合作,一起分擔不是嗎?」
「え?」「哎?」
耳が一瞬、母の言葉を拒絶した。脳に届くまでに明確な時間差があり、到達した時には身体が小刻みに震えだした。 耳朵一瞬間,拒絕了母親的話。在到達腦袋前有著明確的時間差,在到達之時身體微微地顫抖了起來。
「ぶ、ぶぶぶ、豚肉加工の日って何!?」「豬、豬豬豬、豬肉加工日是什麼啊!?」
「ご近所さんで集まって、豚を解体して、塩漬けや燻製、ポットミート、ベーコン、ソーセージなんかを作る日よ。マインだって、去年……そういえば、荷台で熱出してたわね」「召集附近鄰居,將豬隻解體,醃製或煙燻,製作鍋肉、培根、香腸之類的日子唷。瑪茵的話,去年……這麼說來,在車架上發著燒呢」
できることなら、今年も熱を出したかった。そうしたら、少なくとも目にすることは避けられたかもしれないのに。 如果可以,今年也想發燒。那樣的話,是說至少能避免映入眼簾也說不定。
「母さん、この間、市場でお肉買ってたじゃない……」「媽媽,最近,不是在市場買了肉了嗎……」
「たったあれだけで足りるわけないでしょ? みんなで加工しても足りない分を買い足した程度よ?」「只有那些是不可能足夠的對吧? 要買足就算大家一起加工也不足的份的程度唷?」
大量に買い込んだと思っていたのに、足りない分の買い足し程度の量だったとは思わなかった。冬支度に必要な肉というのが、一体どれだけの量になるのか見当もつかない。 是說有想到要大量地買進,但卻沒想到是為了買足不足的份的程度的量。所謂在過冬準備需要的肉,到底是要多少的量猜也猜不到。
豚の解体に行くのが避けられないようで、憂鬱な気分になってきたわたしと違って、トゥーリは荷車を押しながらも満面の笑顔だ。 好像無可避免要去到豬隻的解體,與化成了憂鬱心情的我不同,圖麗儘管推著貨車卻滿臉的笑容啊。
「お手伝いの途中で味見したり、できたてのソーセージが夕飯になったり、楽しみもいっぱいあるんだよ。マインは初めてのお手伝いだけど、みんなでわいわいするのって、ちょっとしたお祭りみたいなの。今年は一緒にできるから楽しみだね」「可以在幫忙的途中嚐味道,做好的香腸也會成為晚餐,有著滿滿的期待唷。瑪茵雖然是第一次幫忙,但大家都亂哄哄的,有一點像是祭典呢。因為今年是一起製作所以很期待呢。」
「みんなって?」「大家是?」
わたしがトゥーリの言葉に思わず首を傾げると、母が「当たり前のことを聞くな」と言わんばかりの表情で口を開いた。 我對圖麗的話不由得歪頭不解時,母親用幾乎要說出「別問那麼理所當然的事」的表情開口了。
「ご近所で一緒にやらなきゃ誰とするの? 豚の解体は大仕事なんだから、大人が10人はいないとできないでしょ?」「必須要跟鄰居一起做所以是跟誰呢? 因為豬隻的解體是件大工程,大人沒有10人是做不到的對吧?」
ぅあぁ、ご近所さんかぁ……。 啊,鄰居啊……。
マインの記憶は曖昧なものも多いから、向こうが知っていてもわたしが知らない人がたくさんいるに違いない。 因為瑪茵的記憶曖昧的東西很多,就算面對知道的但我不知道的人肯定有很多。
対処することを考えると面倒くさい上に、今日やることは豚の解体だ。市場での光景を思い出すだけで背筋が震える。 在厭煩著考慮著應對進退上,今天該做的事情是豬隻的解體啊。只是回想起在市場的光景就不寒而慄。
「……行きたくない」「……我不想去」
「何言っているの? 行かなきゃ冬のソーセージもベーコンもないのよ?」「妳在說什麼呢? 不去的話冬天的香腸與培根就都沒有了唷?」
冬の食料がなくなるのだから、わたしが嫌だと言っても許されるわけがない。行かなかったら冬の食料がないなら、どんなに嫌でもわたしだって参加するしかない。 因為會沒有冬天的食物,就算我說了討厭也不會被允許的。如果不去的話就沒有冬天的食物,即便在怎麼討厭我也只能參加了。
わたしが陰鬱な気分で溜息を吐いていると、荷車は外壁の南門を通過しようとしていた。 我用陰沉的心情嘆了一口氣時,貨車正打算要通過外牆的南門。
「おはようございます。あれ? 班長、遅くないですか? もうとっくにみんな門をくぐって行きましたよ?」「早安。哎呀? 班長,不會遲到嗎? 大家早就已經穿過門了喔?」
「あぁ、だろうな」「啊,也是呢」
門をくぐろうとしたら、父の同僚と思われる兵士が声をかけてきた。どうやら、ご近所さんはもうとっくに農村に向かって出発したらしい。 打算穿過門的話,被認為是父親同事的士兵發出了聲音。看來,鄰居似乎早就已經向農村出發了。
「いってらっしゃい」「一路順風」
子供好きそうな門番のにいさんに手を振られて、わたしも振り返す。何事にも愛想は必要だ。 被好像喜歡小孩的門衛哥哥揮了揮手,我也揮了回去。對任何事都親切是必要的。
わたしがマインになってから、街から出るのは初めてだ。 自我成為瑪茵以來,從城裡出來是第一次啊。
荷車がゴトゴト音を立てながら、短いトンネルのようになっている門を出た瞬間、驚きが素直に声となって出てきた。 貨車一邊發出叩咚叩咚的聲音,一邊離開變得像是短隧道的門的瞬間,驚訝化為了坦率的聲音發了出來。
正直、門の中と外でここまで景色が変わると思っていなかった。 老實說,從沒想過在門的裡面與外面至今為止的景色變化。
「うわぁ」「嗚哇」
まず、家がない。 首先,沒有住家。
街の中はせまい中にひしめき合っているような状態なのに、門を一歩外に出ると、街道と呼ばれるちょっと太めの道から少し引っ込むようにして、10~15軒くらいの集落がぽつぽつと見えるだけだ。 明明城市裡面是在狹窄中互相擁擠般的狀態,但出了一步外的門時,就像從被稱呼為街道也太寬的路上稍微退縮般,只能稀稀落落地看見10~15棟左右的村落。
そして、空気が良い。 然後,空氣很好。
広く開けている分、汚物の匂いも分散されているのか、空気がおいしいものだと実感した。高い壁に阻まれるように籠った匂いがしない。 是拓展開來的關係,穢物的味道都被分散了嗎,體會到了空氣是很好吃的東西。好像被高牆所阻擋而沒有了瀰漫的味道。
あとは、一面が緑だ。 還有,一整片的綠色啊。
広く開けている薄い緑は畑で、こんもりと大きく高くなった濃い緑は森。ものすごく長閑な風景が広がっていた。 拓展開來的淡綠色是農田,茂密地又大又高的深綠色是森林。非常悠閒的風景展開了。
「マイン、口を閉じないと舌を噛むぞ」「瑪茵,不閉上嘴巴的話會咬到舌頭的」
「へっ!?」「咦!?」
父の忠告の直後、ガクンと大きく荷車が揺れて、荷車の揺れが街の中よりずっとひどくなった。街道が石畳ではなくなり、土が丸出しになった道になったせいだ。 緊接著父親的忠告,猛然地大貨車搖晃著,貨車的搖晃變得比在城市裡面還嚴重。街道不再是石板地,而是變成泥土完全暴露的道路的緣故。
荷物も飛び出しそうに揺れているが、ロープで固定されているだけマシだ。固定されていないわたしが一番危険だった。 行李好像要飛出去地搖晃著,只要用繩索固定起來就好。沒被固定的我好像最危險。
晴れたら、ぼこぼこのがたがたで、雨が降ったら、ぐっちゃぐっちゃのでろんでろんになる道なんて最悪だ! アスファルト見習え! 晴天的話,坑坑洞洞硬梆梆的,下雨的話,變成什麼黏黏稠稠顛簸不已的道路是最糟糕的! 學習一下柏油路!
口を開けることもできず心の中で悪口雑言を並べ、わたしは振り落とされないように荷車の縁にがっちりとしがみついた。 在沒辦法開口的心中破口大罵,我像是要被震落般用力地緊緊抱住貨車邊緣。
「そろそろ着くからな」「差不多要到了呢」
目的地の農村は門を出て15分くらいのところだった。農村の入り口にさしかかると、人がたくさんいるざわめきが伝わってくる。 目的地的農村是離開門15分鐘左右的地方。在接近農村的入口時,傳來了人很多的嘈雜聲。
豚の解体は基本的に男の仕事だ。100キロ以上あるような豚を押さえつけたり、紐で縛って釣り上げたり、何をするにも力が必要だからだ。 豬隻的解體基本上是男人的工作。壓住像是有100公斤以上的豬,用繩子綁住吊起來,因為做什麼都是需要力量的。
その間、女性は燻製小屋の準備をしたり、大量のお湯を沸かしたり、道具や塩の準備をしたりと加工のための準備をする。 同時,女性又是煙薰小屋的準備,又是煮沸大量的熱水,還有工具或鹽的準備與為了加工的準備。
農村にたどり着いた時には、先に解体が始められようとしているところだった。解体作業に参加できなければ、当然肉は当たらない。 在終於到農村的時候,在前方是解體正打算要開始的地方。若不能參加解體作業的話,當然肉是沒份的。
「まずい! もう始まるぞ!」「糟了! 已經開始了!」
「大変! トゥーリ、走るわよ!」「不好了! 圖麗,要跑了唷!」
「うん!」「嗯!」
三人とも慌てて荷車から手を離して、荷車の中からぶ厚い素材で作られて、表面に蝋を塗り込んであるエプロンを引っ掴んだ。 三人都驚慌地從貨車上放開了手,從貨車中抓起被用厚厚的素材製作、表面有塗進了蠟的圍裙。
母とトゥーリはエプロンを身につけながら、燻製小屋の方の女性がたくさんにいる方へ向かって走っていく。 母親與圖麗一邊圍起圍裙,一邊往煙燻小屋的方向有很多女性的地方走了過去。
父はその場でエプロンを身につけると、仕事道具でもある槍を持ちだして駆けていった。 父親當場圍起圍裙時,拿起了工作用具裡也有的槍衝了過去。
速っ! 好快!
呆然としているうちに、家族はわたしを置いてみんな行ってしまった。 在發呆的時候,家人把我放著就大家一起去了。
母を追いかけることもできたけれど、これだけの集団の中で、何をどうすればいいのか全くわからないのは不安で仕方ない。毎年恒例の行事ということは、暗黙の了解という常識が存在するのだ。せめて、マニュアルが欲しい。 雖然說也能追上母親,但在這些集團中,完全不知道該做些什麼才好呢而不安是沒辦法的。所謂每年慣例的活動,是存在著名為默契的常識的。至少,想要說明書。
何をするにも足手まといであることを自覚しているわたしは、誰かに呼ばれるまで荷車の番をすることにした。 有著做什麼都會是累贅自覺的我,決定到被某人呼叫為止看守著貨車。
これだって重要な仕事だ、と自分に言い聞かせながら、置き去りにされた荷物と一緒に荷台の上でぼーっと座り込んでいた。 這也是重要的工作啊,一邊這邊對自己說,一邊與被丟下的行李一起在車架上呆滯地坐了起來。
しかし、父が荷物を放置したここは、豚が解体される広場の真ん前だった。少し距離はあるけれど、追いまわされ、悲痛な声で叫びながら逃げようともがく豚が丸見えだ。 但是,父親放置行李的這裡,就在豬隻被解體的廣場正前方。雖然說有點距離,一邊被追趕、用悲痛的聲音叫喊一邊逃跑似地掙扎的豬隻一覽無疑。
木の杭にロープが括りつけられていて、そのロープのもう片方は豚の右後ろ足と繋がっている。杭の回りをぐるぐる回るように逃げる豚を男達が押さえつけようと必死になっている。 被綁在樹樁上的繩索,那個繩索的另一邊綁著豬隻的右後腳。打算將繞著木樁周圍團團轉似地在逃跑的豬隻壓制的男人們也變得拚命了起來。
その中には見覚えのあるピンク頭が見えた。多分、あの周辺にラルフやルッツがいるに違いない。 看得見在那裡面有著眼熟的粉紅頭。大概,在那個四周肯定有拉魯夫與路茲在。
「行くぞ! うらぁっ!」「去了喔! 喔啦!」
そう叫びながら、到着したばかりの父が参戦した。 一邊那樣叫著,剛到的父親一邊參戰了。
ものすごい勢いで手にしていた槍を構えたかと思ったら、豚をブスッと一突き。 才在想著擺出以可怕的氣勢拿著長槍的架式的時候,將豬隻噗哧地一刺。
たった一撃で豚はぴくぴくと何度か痙攣した後、動かなくなった。 只用了一擊豬隻就微微顫抖了好幾次痙攣之後,就變得不會動了。
ひぃっ! と、わたしの血の気が引くと同時に、広場では父の働きに、わぁっと歓声が上がる。 在與咿! 地我的臉色發白的同時,在廣場對父親的功勞,哇地揚起了歡呼聲。
そこへ母さんが金属のバケツのようなものと少し長い棒を持ってきた。別の奥さんが豚のところにボールのようなものを持っていく。 往那裡的媽媽拿起了像是金屬水桶的東西與有點長的棒子。其他的太太在豬隻那裡拿起了像是球的東西。
何をするのだろうと思わず身を乗り出してみた。次の瞬間、周囲に少しばかり血が飛び散って、何人かのエプロンが赤く染まった。 是要做什麼吧不由自主地試著挺出了身體。下個瞬間,在周圍些許的血飛濺開來,染紅了幾個人的圍裙。
血を受け止める準備ができたので、槍が引きぬかれて、血がドバッと吹き出したに違いない。思わず口元を押さえて、乗り出していた身を引いた。 由於做好了承接血的準備,槍被拔了出來,血肯定是咚啪地冒了出來。不由得摀住了嘴角,拉回了挺出去的身體。
奥さん方のスカートに隠れて豚が見えないけれど、大量の血が抜かれているのはボールを運んではバケツに入れていく奥さんの仕事っぷりでわかる。 雖然說看不見被太太的裙子擋住的豬隻,但還是知道正把大量的血排出的是把球搬過來放進了水桶裡的太太的工作。
一方、母は眉間に皺を刻んで、次々と血が流し込まれるバケツを一心不乱にかき混ぜる。 另一方面,母親在眉間深深烙下皺紋,聚精會神地攪拌著接連不斷地被灌入血的水桶。
……母さんが怖い。 ……媽媽好可怕。
その後、数人がかりで準備されていた木に豚を逆さ吊りにした。逆さにされた豚から搾り切れてなかった血がじわりとにじんで滴り落ちる。 那之後,有幾個人將豬隻倒吊在被準備好的樹上。從被倒過來的豬隻上沒被榨乾的血徐徐地滲出滴落。
本格的な解体が始まるのだろう。厚みのある大きな解体用ナイフを手にした男の人が豚の腹にナイフを当てた。 正式的解體要開始了吧。拿著有厚度的大隻解體用小刀的男人把小刀抵在豬隻的肚子上。
そこまでしか記憶がない。 記憶只到了那裡。
気が付いたら、わたしは農村ではなく、石造りの建物の中にいた。寝かせられてた様で石造りの天井が見えるけれど、ウチではない。 發覺到的話,我不是在農村,是在石造的建築物裡面。雖然說用仰入的樣子可以看到石造的天花板,但不是在我家。
寝転がったまま何度か目を瞬くと、気絶する寸前の最後に見た光景が思い浮かんでしまって気持ち悪くなった。 轉為側躺般眨了好幾次眼時,想起了在即將昏厥的最後所看到的光景而變得難受了起來。
でも、何故だろうか。何となく見覚えのある光景に酷似していたような気がして仕方ない。 但是,是為什麼呢。總覺得好像有酷似很眼熟的光景而感到無奈。
何だったっけ? 那是什麼呢?
ほら、引っかけて吊るして、解体していく感じ……。 那種,拉起來吊住,繼續解體的感覺……。
喉元まで出かかっているのに、出てこない。多分、マインの記憶ではない。麗乃の記憶の方だ。日本でも似たようなものを見たはずだ。 明明就要經過咽喉出來了,卻又出不來。大概,不是瑪茵的記憶。是麗乃的記憶那邊吧。應該是在日本也看過類似的東西吧。
わかった! 茨城の港近くの市場で見たアンコウの吊るし切りに似てたんだ! 明白了! 很像是在茨城港附近的市場看到的安康魚吊切!
すっきり! 爽快啊!
そう考えれば、豚の解体もマグロの解体ショーと似たようなもので、新鮮でなければ食べられない物があること、みんながきゃあきゃあと楽しそうにその様子を眺めている心境も理解できた。 那樣思考的話,豬隻的解體好像也是跟鮪魚的解體秀相似的東西。若不新鮮的話就不能吃了的東西,眺望著大家驚呼騷動地好像很快樂的那個樣子的心境也能理解了。
まぁ、理解できただけで、精神的には全くついていけないけど。 反正,也只是能夠理解,雖然精神上完全跟不上。
だって、マグロの解体はあんな悲痛な声で鳴かないもん。あんなにドッパドッパ血が出ないもん。 因為,鮪魚的解體不會用那麼悲痛的聲音鳴叫著咩。不會有那麼樣地大滴大滴的血出來咩。
うぅ、やっぱり気持ち悪……。 嗚,果然很難受……。
口元を押さえて寝返りを打った瞬間、ゴロンとそれまで寝ていたところから落ちた。 摀著嘴角要翻身的瞬間,在翻滾之前就從睡覺的地方掉落。
「いったぁ……」「好痛……」
手をついて起き上がりながら辺りを見回すと、それほど大きくはない木のベンチのようなところに寝かされていたようだ。 一邊用手站起來一邊四處張望,好像被放在沒那麼大的木製長板凳似的地方睡覺。
近くに暖炉があり、火が入っているから、それほど寒さは感じない。けれど、誰もいないし、声も聞こえない。 因為在附近有壁爐,點有火,沒感覺有那麼冷。不過,誰都不在,也聽不到聲音。
……そういえば、ここどこ? ……話說回來,這是哪裡?
やっと現状把握に思考が回ってきた時、わたしが落ちた音が響いたのか、兵士が一人、顔を覗かせた。 對終於掌握現狀而思考運轉起來的時候,是我掉落的聲音響起了嗎,一位士兵,把臉露了出來。
「お、気がついたみたいだな」「喔,好像醒過來了呢」
「オットーさん?」「歐拓先生?」
覚えのある顔に安心して、ホッと息を吐く。オットーさんがいる石造りの建物ということは、門の待合室か宿直室に違いない。場所もわかったことで、現状がわからなかった不安がすぅっと消えていった。 對有記憶的臉感到安心。放心地吐了一口氣。是說歐拓先生所在的石造建築物,肯定是門的等候室或值班室了。因為地點也知道了,不明白現狀的不安咻地消失了。
「俺のこと、覚えてくれてたんだ?」「我的事情,還記得呀?」
わたしが覚えていたことで、オットーの顔にも明らかな安堵が見える。わたしの見た目が幼女なので、きっと知らない人だと思われて泣かれたらどうしようとか考えていたに違いない。 對於我還記得這件事,歐拓先生的表情看起來也明顯放心了。由於我看起來就是個小女孩,肯定是在思考著被認為一定是不認識的人而哭了起來的話該怎麼辦。
「忘れませんよ」「不會忘記唷」
この世界の貴重な文明人で、わたしに字を教えてくれる先生(予定)ですから。 因為是這個世界貴重的文明人,要教我文字的老師(預定)。
わたしが敬礼のマネをして、トントンと胸を叩いてそう言うと、オットーが苦笑しながら頭を撫でてきた。そのまま、現状の説明をしてくれる。 我模仿著敬禮,咚咚地敲著胸口那樣說的時候,歐拓一邊苦笑一邊摸起了頭。就那樣,說明了下現狀。
「班長が血相を変えて、連れてきたんだよ。荷車の中で倒れていたんだって。やることが終わったらすぐに迎えに来るって」「班長臉色大變,帶了過來的唷。說是倒在了貨車裡面。該做的事情結束的話馬上就會來迎接了」
豚の解体にどれくらいの時間がかかるのか知らないが、解体の後で加工もするのだから、すぐに終わるものではないだろう。 我不知道豬隻的解體要花上多少時間呢,因為解體之後也還要加工,所以不會馬上就結束的吧。
……そういえば、トゥーリはできたてが夕飯に出てくると言ってたっけ。 ……這麼說來,圖麗好像說過做好的會在晚餐拿出來。
自分が持っている情報から、しばらくこの待合室で待つことになるとわかった。 從自己持有的情報,明白了會暫時在這個等候室等待。
どうせ時間を持て余すとわかっていたので、荷台の荷物にはパピルスもどきの原料である繊維も乗せていたのに、今のわたしの手元にはない。 反正由於明白了時間多的是,在車架的行李裡有載著作為仿造紙莎草原料的纖維的說,但現在的我的手裡沒有。
「どうした、マインちゃん? お父さんやお母さんがいなくて寂しい?」「怎麼了,小瑪茵? 爸爸或媽媽不在寂寞嗎?」
「……ううん、時間潰しどうしようかな? って」「……不是,是該怎麼消磨時間才好呢?」
首を振って、ついつい本音を口にしてしまったわたしをオットーはまじまじと見つめた後、「そういえば、見た目ほど幼くないって言ってたな」と呟いた。 歐拓目不轉睛地凝視著搖著頭、下意識脫口而出真心話的我之後,嘀咕著「這麼說來,有說過不像外表那麼的年幼呢」。
「ちょうどいいや、マインちゃん。これ、時間潰しにならないか?」「那麼正好,小瑪茵。這個,能夠消磨時間嗎?」
「わぁ! 石板!」「哇! 石板!」
オットーさんが差し出したのは石板だった。今日は絶対に門を通る日だから、手渡そうと思って、仕事場に持ってきてくれていたらしい。 歐拓先生遞出來的是石板。似乎是因為今天是絕對會通過門的日子,所以想著要親自交付,而帶到了工作場所來。
文明人で、気配りできて、親切なんて、良い人すぎるっ! 是文明人,又會照料,又很熱情,太好人了!
「オレは門のところに立たなきゃいけないから、練習でもしていてね」「因為我必須要站在門的地方,所以即便是練習也要好好做呢」
オットーはそう言って、石板の上の方にマインの名前を書いて、石筆と布を置いて、部屋を出ていった。 歐拓那樣說著,將瑪茵的名字寫在石板的上方,放下石筆與布,走出了房間。
わたしは片腕で石板を抱きしめたまま、これ以上ない笑顔で大きく手を振ってオットーを見送ると、石板に視線を落とした。 我用一隻手緊緊抱住著石板,用最大的笑容大大地揮著手送別歐拓時,視線落在了石板上。
石板はA4くらいのサイズのミニ黒板と説明すればいいだろうか。木枠の中に黒くて薄い石がはめ込まれている。石板は両面になっていて、裏と表の両方に書くことが出来るようで、片面には字の練習のための基準線が引かれていた。 石板是大約A4尺寸的迷你黑板這麼說明的話就可以了吧。在木框裡被嵌進了黑色的薄石頭。石板化為了兩面,好像可以書寫在正與反的兩面,在單面畫上了為了文字練習的基準線。
そして、石筆は石板に書くための道具で、触ってみると固くてひんやりとした石の素材だけれど、見た目は完全にちょっと細長い白チョークだ。 然後,石筆是為了書寫在石板上的用具,試摸看看雖然是堅硬又冰涼的石材,但外觀完全是稍微細長的白色粉筆啊。
ちょっと薄汚れている布は消しゴムの代わりだろう。抱きしめただけで、オットーが書いてくれた字が少し薄くなってしまったから。 有點髒兮兮的布是橡皮擦的替代吧。因為只是抱緊著,歐拓所寫的字就變得有點淡了。
「うわぁ、すごいドキドキする」「嗚哇,心跳得好厲害」
机の上に石板を置いて、石筆を手に取った。 把石板放在桌上,把石筆拿在手上。
鉛筆を持つように石筆を握るだけで、心臓が高鳴る。 只是像拿鉛筆一樣握著石筆,心臟就劇烈跳動。
最初は、せっかくなのでオットーの字を手本に、全く見覚えのない字を書いてみる。 最初是,因為難得而將歐拓的字當作範本,試著寫著完全陌生的字。
緊張と初めて書く文字だからか、ちょっと震えて歪んだ。これが日本だったら舌打ちしながらさっさと消して、書き直しただろう。 因為緊張與初次書寫文字吧,稍微顫抖變形。這是日本的話就會一邊咋舌一邊趕快擦掉,重新書寫的吧。
でも、今は消すのがもったいないと思うほど、久し振りに字を目にしたことが嬉しい。 但是,現在擦掉的話好像會認為很浪費,隔了好久才看到文字而很高興。
ゆっくりと息を吸って、吐いて、石板の左側に置いてあった布で擦って消して、もう一度書いてみた。 先程よりはマシに書けた。 慢慢地吸氣、吐氣,用放置在在石板左邊的布擦拭掉,試著再寫一次。 比剛才寫得更好了。
自分の名前を書いては消して書いては消して……。 把自己的名字寫了又擦掉寫了又擦掉……。
それに飽きたら、覚えている短歌や俳句を日本語で書いては消して書いては消して……。 而且厭倦的話,將記得的短歌或俳句用日語寫了又擦掉寫了又擦掉……。
ハァ、幸せすぎる。 哈,太幸福了。
文字を書いて読めることが、こんなに幸せなことだとは思わなかった。 從沒想過書寫閱讀文字,會是這麼幸福的事情啊。
暖炉の近くとはいえ、隙間風の吹きぬける待合室で、家族が迎えに来るまで何時間も石板で遊んでいたわたしは、病弱の名に恥じないスピードで風邪を引いて、熱を出した。 雖說在壁爐的附近,但在牆縫風吹過的等候室裡,直到家人來迎接為止的幾個小時都用石板在玩的我,以不愧對體弱多病之名的速度罹患了感冒,發燒了。
「今日もまだ熱が下がってないんだから、マインはベッドでいなさい。出ちゃダメよ!」「因為今天也還沒退燒,所以瑪茵請待在床上。不可以出來唷!」
「……わかった」「……我知道了」
両親が家を出入りする足音は慌ただしく、二人で日持ちする根菜を冬支度部屋に詰め込んでいる。 雙親進進出出家裡的腳步聲慌慌張張的,兩個人將耐放的根莖類蔬菜塞進了過冬準備的房間。
トゥーリは台所で、自分が採ってきた木の実を煮詰めて、ジャムを作っている。この世界では嗅いだ事がない甘い匂いが家中に漂っているだけで、ちょっと幸せな気分になれる。 圖麗在廚房,熬煮自己採來的樹木的果實,正在做著果醬。只因在這個世界上從沒聞過的香甜氣味在家中飄散著,就就化成了有點幸福的心情。
お酒を仕込んだり、豚の加工品が運び込まれたりするなか、トゥーリがお昼のスープを持ってきてくれた。 又是釀酒,又是把豬的加工品搬進去嗎,圖麗把午餐的湯拿了進來。
わたしは石板を置いて、お盆ごと受け取る。 我把石板放著,接下了盤子。
「ごめんね、トゥーリ」「抱歉呢,圖麗」
「ホントだよ」「的確是呢」
「えぇ? それは言わない約束だよって言ってよ」「唉? 說過約定好不要那麼說的吧」
「そんな約束してないでしょ!」「沒做過那種約定的吧!」
そりゃ、約束はしてないけどさ。 是呢,雖然沒約定過。
お約束なんだよ? 約定是什麼呀?
家族みんなが冬支度にバタバタしている間、わたしはベッドでゴロゴロしながらオットーにもらった石板で名前の練習をしたり、日本語の文章を綴ったりして遊んでいた。 家族全體在為過冬準備忙亂不已的期間,我一邊在床上滾來滾去一邊用歐拓給的石板又是練習著自己的名字,又是撰寫日文的文章在遊玩著。
やっぱり保存できる本が欲しいなぁ。 果然還是想要能保存的書本呢。
字が書けるだけで、こんなに嬉しいんだから、本が読めたらもっと嬉しいだろうし。 因為只是能寫字,就這麼樣地高興,能看書的話就更加地高興了吧。
早く体調戻して、紙作らなきゃ。 快點恢復健康狀態,必須要造紙了。
======================================================================
マインは石板をGETした! 木と藁でできた人形やボロ布で作ったボールには全く興味がないマインの大事なおもちゃです。 瑪茵獲得石板了! 對用木頭與稻草做成的人偶或用破布做成的球完全沒興趣的瑪茵的重要玩具。
そういえば、最初は石板や石筆について説明入れてなかったけれど、「知らない人の方が多いんじゃない?」と言われたので、説明も入れてみました。 這麼說來,雖然說最初對石板或石筆沒置入說明,由於被說了「不知道的人不是很多嗎?」,所以說明也試著放了進來。
おもちゃとしては、おえかきせんせいみたいなものです。 作為玩具,是很像兒童畫板的東西。
昔よく遊んだなぁ。 以前很常玩呢。