魔導具師ダリヤはうつむかない魔導具師妲莉雅永不妥協
作者:甘岸久弥
番外編 父と娘の魔導具開発記録~魔導ランタンの飾り部分~番外篇 父與女的魔道具開發紀錄~魔導提燈的裝飾部分~
「ここで魔力を均一に載せ続けると――こうなる」「持續在這裡均勻地施放魔力後——就會這樣」
カルロが手にしているのは鈍い銀の金属板、その上に広がるのは鮮やかな赤の液体だ。東ノ国の植物で、赤鬼葉と呼ばれるものを粉にし、薬液で溶いたものである。 卡爾羅拿在手上的是鈍銀色的金屬板,擴散在那上面的是鮮豔的紅色液體。是把東之國的植物、又被稱為赤鬼葉的東西磨成粉,用藥液溶解的東西。
カルロは指先の魔力を操り、四角い金属板に赤の液体を広げていく。そして、そのまま銀板を均一に覆い尽くした。板の上、薄く赤いガラスを載せたような仕上がりだ。角度を変えるときらきらと光り、なかなかに美しい。魔導ランタンの飾り部品にちょうどよさそうだ。 卡爾羅操縱指尖的魔力,讓紅色液體逐漸擴散在四角金屬板上。然後就那樣均勻地整個覆蓋住銀板。像在板子上蓋著淺紅色的玻璃般完成了。改變角度後會閃閃發光,相當地美麗。正好能當成魔導提燈的裝飾零件。
「……ならないわ、父さん」「……無法均勻啦,爸爸」
緑の塔の作業場、高等学院卒業間近の娘が、眉間に皺を寄せている。 綠之塔的工作區,臨近高等學院畢業的女兒皺起眉頭。
「気負うな。力を抜いて、魔力を一定に、平らに流す感じだ」「別逞強。不要用力,保持一定的魔力、平緩地流動的感覺」
「もう一回やってみる」「我再做一次看看」
自分が付与したものより一回り小さい金属板を手に、ダリヤは赤鬼葉の薬液をスポイトでそっと置く。その時点で薬液が斜線を描いて伸びた。 將比自己所賦予的東西還小一圈的小小金屬板拿在手上,妲莉雅將赤鬼葉的藥液用滴管輕輕放上去。藥液在那個時間點畫起斜線延長。
「まだ魔力は通してないのに……」「明明就還沒有通過魔力……」
不満そうな声が響くが、薬液が動くのは微量でも魔力が動いているということだ。それは意識して止めるしかない。 雖然響起不滿的聲音,但藥液會動就是說魔力正以微量在移動。那只能有意識的停止。
赤鬼葉は、鮮やかな赤の染料として、また、耐久性を上げる塗料として便利な素材だ。 赤鬼葉是作為鮮豔紅色的染料,還有作為提高耐久性塗料的便利素材。
しかし、魔導具師や魔導師に、あまり人気はない。 可是,在魔導具師或魔導師裡不怎麼有人氣。
細かく魔力制御をしないとあっと言う間に流れる、あるいは散って終わる。 做不到精細的魔力控制,轉眼間就會流動、或者散開結束。
高魔力で一気に付与するような力技は効かない。そして、弱い魔力でじっくりと作業をするわけにもいかない。定着魔法をかけるまでに時間が空くと退色するからだ。 用高魔力一口氣進行賦予的硬幹沒有效。然後,用微弱魔力踏實地進行作業也不行。因為直到施加定著魔法為止空出時間就會掉色。
東ノ国では、家具や武具を塗るのによく使われているそうだ。 在東之國,似乎經常被使用在塗抹家具或武具上。
一体どうやっているのか、機会があれば、その制作を娘と共に見たいところである。 到底是怎麼做的呢,有機會的話,真想與女兒一起看看那個製作。
「うーん……」「嗚……」
不満げな猫のように唸った顎から、ぽたりと汗が落ちた。細い指先が少しばかり震えている。 就像不滿的貓咪呻吟著,從下顎滴落的汗水。纖細的指尖微微顫抖著。
作業に夢中だと、疲れにまったく気づかない――そんなところまで娘が自分に似てしまったのを、カルロはよく知っている。 埋頭作業,完全沒注意到疲憊——卡爾羅非常明白女兒連那種地方都與自己神似。
「ダリヤ、今日はここまでにしよう」「妲莉雅,今天就做到這裡吧」
次の金属板を手にされぬように片付けはじめると、娘はようやく顔を上げた。 為了不再讓她拿到下個金屬板而開始收拾後,女兒才終於抬起頭。
「父さん、私にもっと魔力があったら、この付与もうまくできるのかしら?」「爸爸,我有更多魔力的話,這個賦予也能順利完成嗎?」
自分と同じ緑の目が、恨めしげに金属板を見る。赤い液体は均一ではなく、まるで花を咲かせたように中央から四方に伸びている。大輪のダリアのようだが、それを言うのは避けた。 與自己一樣的綠色眼睛怨恨地看著金屬板。紅色液體無法均勻,簡直就像開花般從中央往四方延伸著。雖像大朵的大麗菊,但忌諱說出那點。
「まあ、楽にはなるかもな。だが、生活魔導具に必要なのは魔力量より魔力制御だぞ」「也是,或許會變輕鬆吧。但是,比起魔力量生活魔導具需要的更是魔力控制喔」
娘も自分と同じく、生活関連の魔導具を作る魔導具師を目指している。 女兒與自己一樣,正以製作有關生活魔導具的魔導具師為目標」
大量に魔力が必要な、貴族向け・王城向けの魔導具を作ることはまずない。 絕不是製作需要大量的魔力、貴族向.王城向的魔導具。
「父さん、王城の天狼の付与って大変だった? いくつあったら大型給湯器の付与ができるの?」「爸爸,王城的天狼賦予很辛苦吧? 要有多少才能給大型熱水器賦予呢?」
『まずない』はずのことを実行したことが一度ある。ダリヤはそれについて興味津々だ。 有實行過一次應該是『絕不』的事。關於那點妲莉雅興致勃勃。
「……十二だな。それ以下では難しいから、請われても引き受けるなよ」「……十二呢。因為那以下很困難,就算被請求也別接受喔」
「父さんは十二あるのね。私には一生無理そう……」「爸爸有十二呢。我似乎一輩子都不可能……」
「腕を上げたいなら小型給湯器を百台作ればいい。同じ給湯器だ、たいして変わらん」「想要提升本領的話製作一百臺小型熱水器就好了。一樣都是熱水器,大致不變」
とても残念そうに言う娘に、魔力の上げ方を教えようとして止め、別の提案をした。 面對非常遺憾似地說著的女兒,我停止打算教她提高魔力的方法,做了其他提議。
もし成長期が続いているのであれば、体を壊さぬよう教えない方がいい--そんな理由をつけながら、自分の本音が違うことに気づいている。 假如成長期還在持續著的話,為了不弄壞身體不教會比較好——儘管加上那種理由,卻注意到自己的真心話不一樣。
ダリヤの魔力値は八。この先、付与を続けて九。できればそれ以上は上げさせたくない。 妲莉雅的魔力值是八。這之後繼續賦予會是九。可以的話不想讓她再提高了。
自分も本当はまだ十二には満たない。十一まで上がったのさえ、少し前の王城での話だ。 自己其實也還不滿十二。連提高到十一也是不久前在王城的事。
王城、王族の大型給湯器への『風魔法効果の熱暴走防止』の付与-- 給王城、王族的大型熱水器賦予『防止熱失控的風魔法效果』——
今まで断り続けていた仕事だが、自分の希望を通すため、そして金銭のために受けた。 雖是至今一直拒絕的工作,但為了貫徹自己的希望,然後為了金錢才接受。
正直、まずった。 老實說很糟糕。
必要な素材は天狼の牙、魔力に暴れるそれを制御しきれず、十一超えになることを覚悟して飲んだ魔力ポーション。汗は滝のように流れ、呼吸はひどく乱れた。 需要的素材是天狼牙,控制不了為魔力瘋狂的天狼牙,覺悟到會超過十一而喝下魔力回復藥。汗如瀑布般狂瀉,呼吸非常紊亂。
黒の三つ揃いを着た依頼者からは、『他の魔導具師を手伝いに呼んでは?』と提案された。 被穿著全套黑色西裝的委託者提議『要叫其他魔導具師來幫忙嗎?』。
他の魔導具師として名が挙がったのは、オズヴァルドなど交流のある魔導具師達、今は別の職を持つレオーネのような者達、そして、娘であるダリヤー--絶対にお断りだ。 作為其他魔導具師列舉出名的是歐茲瓦爾德等等有交流的魔導具師們,像現在擁有其他職業的雷歐涅般的人們,然後是身為女兒的妲莉雅——我絕對會拒絕。
『報酬を割らないため、私一人でいいでしょう』そう、思いきり笑ってやった。 『為了不分割報酬,我一個人也可以的吧』如此說著,放聲大笑。
依頼者は、何も言わず、薄い唇だけで笑った。 委託者什麼都沒說,只有薄薄的嘴唇笑了。
その後の仕上げにも思わぬほど魔力が必要で、気がつけば魔力は十一より十二に近かった。 那之後的完成也需要意想不到般的魔力,注意到時魔力比起十一更接近十二。
それでも、無事生きているのを素直に喜んだ。 儘管如此,我也坦率地為無事生還而高興。
ようやく帰った夜、ダリヤは玄関でそわそわと待っていた。 終於回來的夜晚,妲莉雅在玄關坐立不安地等待著。
風魔法効果による魔導具の熱暴走防止の即席講義を行い、もらった天狼の牙を見せた。 進行藉由風魔法效果來防止魔導具的熱失控的即席講義,展示收到的天狼牙。
目をきらきらさせて牙を指でつつく娘に、ついほだされた。『厄介な素材だから、すぐには使うな。もう五年か十年もしたら、ダリヤも使えるようになるだろう』、そう注意しまくって渡した。 面對眼神閃閃發光用手指戳著牙齒的女兒,進行補述。『因為是麻煩的素材,不要馬上使用。再過個五年或十年的話,妲莉雅也會變得能使用吧』,如此耳提面命交給了她。
しかし、己にそっくりの娘は、夜中に隠れて付与をしたらしい。 可是,像極了自己的女兒,似乎在夜裡偷偷做了賦予。
自分も倒れるように眠っていて、気づくのが遅れてしまった。 自己也像是睡死了般,發現到晚了。
青い顔をしたダリヤに、もしもがあったらと、指が震えるほどに恐怖した。 面對臉色發青的妲莉雅,我恐懼著若有個萬一到手指顫抖的程度。
幸い単純な魔力不足だったので、二日ほど休ませた。それでも不安は残るので、ミルクパン粥を作り、かなり多めの砂糖とポーションをこっそり入れた。 幸好是單純的魔力不足,就讓她休息個兩天左右。儘管如此也還留有不安,而做了牛奶麵包粥,偷偷放入相當多的砂糖與回復藥。
多少の無理をしてでも魔導具師として挑戦してみたい、その気持ちは嫌というほどにわかる。 就像是多少勉強點也要作為魔導具師來挑戰的那份心情,我明白到討厭的地步。
渡した自分が一番悪い。だから、どうしても怒れなかった。 最有錯的是給她的自己。所以怎樣都無法生氣。
「うちの息子、次男のトビアスだが――カルロの弟子にしてもらえないか?」「我家兒子、次男托比亞斯——能不能當卡爾羅的弟子呢?」
親友からそう持ちかけられたのは、その息子が高等学院の魔導具科に入った翌年のことだった。 被好友如此提出是在他兒子進入高等學院魔導具科隔年的事。
魔導具師は魔力量、魔力の向き不向き、作りたいものによって学ぶ方向が変わる。そう説明し、『作りたい魔導具の方向性が合い、父親の勧めではなく本人が望むのであれば考える』そう答えた。 魔導具師會根據魔力量、魔力偏不偏好、想製作的東西來改變學習方向。如此說明,並『想製作的魔導具的方向性適合,不是父親勸說而是本人期望的話我會考慮』如此回答。
だが、親友は魔導具も多数扱う商会の会長だ。どうにも気になることがあった。 但是,好友是買賣許多魔導具的商會會長。怎樣都會有很在意的事。
「お前なら貴族の魔導具師に弟子入りを願えるだろう? そっちの方が環境も待遇もずっといいぞ」「如果是你能拜託貴族魔導具師收徒弟的吧? 那邊的環境與待遇會好很多吧」
「トビアスはうちの家族で一番魔力が高い。おそらく妻の血縁上の父から、飛び越して受け継いだのだと思う……」「托比亞斯在我家族內是魔力最高的。我想恐怕是來自妻子血緣上的父親,隔代遺傳的……」
ああ、そうか。だから俺に頼むのか――カルロはあっさり納得した。 啊啊,是嗎。所以才拜託我嗎……卡爾羅很簡單就理解了。
親友の妻は、ダリヤと同じように、貴族の血を引いているのだろう。 好友的妻子就跟妲莉雅一樣,繼承了貴族的血統吧。
そのしがらみがどこで巻き付いてくるかはわからない。親として避けたいところではある。 那層障礙不知道會在哪裡纏上來。是作為父母很想避免的一點。
「それに、私は商人だから、魔導具を扱っていても、魔導具師の技術も心もわからない。信頼できる『親友』に預けたいと思うのは当たり前じゃないか」「而且,因為我是商人,就算有在買賣魔導具,也不知道魔導具師的技術與心。我會認為想要托給能信賴的『好友』不是理所當然的嗎」
「ほだされんぞ。それとこれとは別だ。教えるなら授業料はきっちりとる。月に二度酒を奢れ」「別套交情喔。這可不能相提並論。要我教是會好好收教學費的。一個月請我喝兩次酒」
「今とたいして変わらないじゃないか。カルロ、月に三度でどうだ?」「那跟現在沒什麼不同吧。卡爾羅,一個月三次如何?」
その日、二人で大笑いして酒が進み、日付の変わった帰宅後にそれぞれ家族に怒られた。 那一天,兩人大笑喝著酒,換日才回家後各自被家人罵了。
数日後、親友の息子が緑の塔にやってきた。 幾天後,好友的兒子來到了綠之塔。
「トビアス・オルランドです。どうぞよろしくお願いします」「我是托比亞斯・歐爾蘭德。還請多多關照」
「カルロ・ロセッティだ。よろしくな」「卡爾羅・羅瑟提。你好啊」
深く頭を下げた茶髪の青年に、カルロは明るく挨拶を返す。 面對深深低下頭的茶髮青年,卡爾羅回以明朗的問候。
トビアスはどちらかというと友ではなく、その妻に似ていた。外見も魔力も母親似なのだろう。 托比亞斯要說哪邊的話,更神似他的妻子而不是朋友。外表與魔力都像母親吧。
「じゃあ、魔力制御からいってみるか」「那麼,就從魔力控制開始試看看吧」
腕試しもかね、金属板と赤鬼葉の薬液を預けた。すると、彼は『不勉強で』と謝り、完成の理想形と使用目的を尋ねてきた。説明しながら、ひどく感心した。 也算是測試本領呢,給了他金屬板與赤鬼葉的藥液。於是,他道歉說『不夠用功』,尋問起了完成的理想型態與使用目的。我一邊說明一邊非常佩服。
誰がどう使うか。生活魔導具を作る上で頭におくべきことが、説明しなくてもきっちりあった。 誰會怎麼用呢。在製作生活魔道具上應該要置於腦中的事,就算不說明也正好吻合。
魔力は自分より少ないが、知識はそれなりに入っている、付与も形成魔法も拙いながらも丁寧で、数をこなせば問題ない――たった半日でそう判断できた。 魔力雖然比自己還少,但有著相當的知識,賦予與形成魔法儘管很拙劣卻很仔細,熟能生巧就沒問題了——只用半天就能如此判斷。
魔力制御に関してはまだ甘いが、これはダリヤも勉強中である。 有關魔力控制還不成熟,但這點妲莉雅也在學習中。
商会長の息子らしく、礼儀正しく言葉も丁寧で、穏やかな青年――そう思いかけ、付与に失敗した金属板を見る強い視線、額を流れる汗に納得する。 像個商會長的兒子、禮儀端正用語也很有禮貌、且穩重的青年——如此想著,我認同了看著賦予失敗的金屬板的強烈視線、流過額頭的汗水。
ここまで集中できるのは、魔導具への情熱か、魔導具師の意地かの二択である。 能集中到這個地步,是對魔導具的熱情嗎、還是魔導具師的志氣呢二選一。
「すみません、もう少しだけ、作業場をお借りしてもかまわないでしょうか?」「對不起,介不介意我再稍微借用一下工作區呢?」
夕方、言いづらそうに尋ねる彼に、もちろんだと答え、魔導ランタンの灯りを一段明るくした。 傍晚,面對難以啟齒地尋問的他回以當然,將魔導提燈的燈火點亮一節。
一心不乱に金属板に向かうトビアスに、若い頃の自分が重なった。 年輕時候的自己,重疊在一心不亂地面向金屬板的托比亞斯身上。
カルロは魔導具師になるために、高等学院の魔導具科に進んだ。 卡爾羅為了成為魔導具師,進入了高等學院的魔導具科。
すぐ痛感したのは、己の魔力の少なさだった。 馬上痛感到自己的魔力很少。
魔力量が物を言う付与の実技は練習量とは関係なく、貴族の血筋の者達が圧倒的にうまかった 魔力量能起作用的賦予實技與練習量沒有關係,貴族血統的人們會壓倒性地順利。
魔力不足に悩む中、顧問の教師につられて入った魔導具研究会では、高い魔力持ちが多くいた。 煩惱著魔力不足中,在被顧問老師帶進去的魔導具研究會裡,有很多擁有高魔力的。
自分の魔力では扱えぬ魔物素材をいとも簡単に付与し、高出力の魔導具を作る先輩。 能輕而易舉地賦予無法用自己的魔力處理的魔物素材,製作高出力的魔導具的前輩。
文官科と魔導具科の両方に籍を置いて多忙な中、高い魔力で次々と魔導具を制作、それを売って貴族の家を守る先輩。 在文官科與魔導具科兩邊設籍的繁忙之中,用高魔力一個個地製作魔導具,販賣那些保護貴族家庭的前輩。
技術は少なくても、高い魔力で同じ魔導具を量産し、父親の商会を助けている同級生。 就算技術不多,也用高魔力量產同樣的魔導具,幫助著父親商會的同級生。
自分の魔力は彼らと比較して少ない。扱いたい素材には足りず、作れない魔導具をただ見ている。だけ。男爵位を得た腕のいい魔導具師の父がいても、自分の手にその技術があるわけではない。 跟他們做比較自己的魔力很少。不足以處理想處理的素材,只能看著做不了的魔導具。但是,就算有本領高超獲得男爵位的魔導具師父親,也不是自己手上就有那份技術。
「自慢していいぞ、カルロ。お前の父親の魔力制御は、『神』だ」「你可以自豪喔,卡爾羅。你父親的魔力控制,是『神』」
幼い頃、緑の塔に来ている素材業者に、笑顔でそう言われたことがある。 孩提時代,有被來到綠之塔的素材業者用笑臉這麼說過。
ずいぶんなお世辞があったものだと思った。 那時想著還真是相當恭維呢。
納得したのは自分が魔導具師を目指し、高等学院に入り、父の弟子となってからだ。 會同意是自己以魔導具師為目標,進入高等學院成為了父親的弟子之後。
父の魔力は高くはなかった。だが、魔力制御はとても繊細だった。 父親的魔力不高。但是,魔力控制非常纖細。
錐で開けたよりも細い穴に、絹糸のような魔力を入れ、筐体の内側が見えぬのに、顔色一つ変えずに魔導回路を組んだ。 在比用錐子所開還細小的洞穴裡,讓絹絲般的魔力進去,明明就看不見外框內側,卻面不改色地組成魔導迴路。
『魔力制御にはコツがあるのか?』そう尋ねた自分に、父は二単語で答えた。『練習と根性』と。 面對『魔力控制有訣竅嗎?』如此尋問的自己,父親用兩單詞回答。『練習與毅力』。
口数の少ない父、言葉の少ない師匠だった。 話不多說的父親,是話不多的師傅。
魔導具師として躍進できるような教えが欲しいのに、繰り返されるのは魔力制御と地味な実技、各種計算の繰り返し。それぞれの大切さはわかっているが、前に進んでいる気がしない。 明明我想要的是作為魔導具師能躍進般的教導,讓我重複的卻是魔力控制與樸素的實技、重複各種計算。雖然明白各自的重要,卻感覺不到有在前進。
余裕で付与をこなし、魔導具を作る仲間を見て、身の内が灼けるような想いに悩まされた。 看著很有餘裕的運用賦予、製作魔導具的同伴,燒灼體內般的思緒讓人煩惱。
十六で成人を迎えた月、魔導具研究会で酒が飲める者達と祝うこととなった。 十六歲迎接成人的那個月,就在魔導具研究會與喝酒的人們慶祝。
そして、酔った勢いで騎士が行うという『暴露大会』、互いの秘密を暴露することとなった。 然後,騎士趁著酒醉進行了『自爆大會』,自爆了彼此的秘密。
順番はジャンケンだったか、丸テーブルの席順だったか覚えていない。自分は最後だった。 不記得順序是猜拳還是圓桌的座位順序了。自己是最後的。
入試で寝てしまい再試で入学した話、幼馴染みが知らぬ男と婚約して泣いた話など、なかなかに高等学院生らしい暴露大会が始まった。その後、魔導具研究会員らしい告白になだれ込んだ。 入學考睡著了重考才入學的話、青梅竹馬跟不認識的男性訂婚而哭的話等等,頗像個高等學院生的自爆大會開始了。那之後,像是魔導具研究會員的告白蜂擁而入。
「暴露大会! 俺は魔力が抑えられない! クラーケンテープがまったく貼れん! 一度でいい、あれを貼りまくりたい!」「自爆大會! 我抑制不了魔力! 完全貼不了克拉肯膠布! 一次也好,我想要貼住那個!」
思い返せば、先輩は恋人に贈る飾りボトルにクラーケンテープを貼るのを、自分に頼んでいた。あれは新入生への雑用申し付けではなかったらしい。 回想起來,前輩是拜託過我把克拉肯膠布貼在送給戀人的裝飾緞帶上。那個似乎不是對新生的瑣碎命令。
「暴露大会。低出力の維持が苦手だ。いや、ほぼできんので時間の無駄だ。低出力でも割のいい魔導具制作の打診はあるが、引き受けられん……」「自爆大會。我不擅長維持低出力。不對,是幾乎辦不到而浪費時間。雖然有低出力且相對划算的魔導具製作探詢,但我接不下來……」
貴族でありながら販売用魔導具をせっせと作る先輩は、魔導具制作のバイトを時々回してくれていた。納期がきついのかと思っていたが、本当にできなかったらしい。 儘管是貴族卻不停地製作販賣用魔導具的前輩,偶爾會把魔導具製作的打工轉來給我。還以為是交貨期限很緊,但似乎是真的做不到。
「暴露大会、開発が嫌いです。開発が好きだが自分ができなかったからと、高等学院に入れてくれた父には悪いですが、僕は開発者じゃなく、魔導具を丁寧に作る職人になりたい……」「自爆大會,我討厭開發。雖然喜歡開發但因為我自己辦不到,雖然對讓我進入高等學院的父親很不好意思,但我不是開發者,我想成為細心製作魔導具的職人……」
同じ魔導具をいくつ作っても楽しげだった友が、レポートで胃を痛めていた理由がわかった。 我明白了製作好幾個相同的魔導具也很快樂的朋友,會因報告而胃痛的理由。
それぞれの秘密の暴露をしみじみと聞いた。皆、苦悩は深かった。 深切地聽著各自自爆的秘密。大家都深感苦惱。
そして、最後に自分の番となったとき、己の悩みはどうでもよくなっていた。 然後,在最後輪到了自己的時候,自己的煩惱變得怎樣都好了。
「カルロ、お前も話せ」「卡爾羅,你也說吧」
先輩にせかされたので、右手はテーブルに、左手にグラスを持ち、声高く一気に言う。 由於被前輩催促,我右手撐著桌子、左手拿著酒杯、一口氣大聲說完。
「暴露大会――俺は顧問のリーナ先生に一目惚れして魔導具研究会に入った!」「自爆大會——我是對顧問李娜老師一見鍾情才進入魔導具研究會的!」
数秒の沈黙の後、全員が同時にやかましく騒ぎだした。 數秒的沉默之後,全員同時開始喧嘩騷動起來。
「ロセッティ、貴様! 魔導具師としての技術を磨きたいと、入会挨拶で言っておいて!」「羅瑟提,你這傢伙! 入會問候說的是想磨練作為魔導具師的技術吧!」
「あははは! お前はそういうヤツだと思っていたぞ、カルロ!」「啊哈哈哈! 我就認為你是這種傢伙喔,卡爾羅!」
「カルロ君、ちょっとリーナ先生について語り合おうじゃないか……」「卡爾羅君,關於李娜老師要不要稍微來互相聊聊呢……」
何度も背中を叩かれ、酒を勧められ、親友が増えた夜だった。 我被拍打好幾次後背、被勸好幾次酒,是好友增加的夜晚。
悩みなど、あって当たり前。 有煩惱是理所當然的。
貴族でも庶民でも魔力の多いのも少ないのも年上も年下も、皆悩む。そう理解してふっ切れた。 不論貴族或平民、魔力多或魔力少、年長或年幼,大家都在煩惱。如此理解煩惱一哄而散。
それからは魔力量を嘆くのはやめた。ただひたすらに魔力制御と実技に打ち込んだ。 那之後我停止怨嘆魔力量。只是一個勁地全神貫注在魔力控制與實技上。
魔力制御と技術、そして正しい知識があれば、一人前の魔導具師になれるのだ。 魔力控制與技術,然後有正確的知識就能成為獨當一面的魔導具師。
魔力など上げずとも、狂いのない付与で魔導具を仕上げる、父のような魔導具師に。 即使不提高魔力,以不失常的賦予完成魔導具,也能成為像父親那般的魔導具師。
望めるなら、その父を超える魔導具師に-- 若要談期望,我想成為超越那位父親的魔導具師——
朝起きたら魔力を練りはじめ、通学路で、授業の合間に、食事の後に、魔導具研究会の活動中に、帰宅後に、寝落ちるまで、練り上げて練り上げて、四散させた。 早上起來後開始煉成魔力,在通學路上、授課空檔、用餐之後、魔導具研究會的活動中、回家後、直到睡著,提煉再提煉,讓其四散。
人のいないところで、魔封銀を塗った板に穴を開けたもの、その中に魔力を通した。 在沒有人的地方,將塗了魔封銀的板子開洞,讓魔力通過其中。
魔力の制御がうまくいかず、大きめの魔力が跳ね返ると、指先を鞭で叩かれたほどには痛い。 魔力的控制無法順利進行,大量的魔力反彈後,痛到像被用鞭子敲打指尖。
うっかり出力を間違えて爪を飛ばしたときは、転んだと言い張って医務室に駆け込んだが。 一不留神搞錯出力讓指甲飛掉的時候,我藉口跌倒了跑進了醫務室。
爪が割れようが、指が赤く染まろうが、空いた時間、気がついた時間をすべて魔力制御につぎ込んだ。誰のためでもない、自分のために魔力を練り上げ、制御を覚えた。 雖然指甲裂開、手指染成紅色,但我將空閒時間、注意到的時間全部都傾注到魔力控制上。並不是為了誰,而是為了自己提煉魔力、學會控制。
翌年、銀髪銀目の美形な後輩が魔導具研究会に入ってきた。 隔年,銀髮銀眼的美貌後輩加入了魔導具研究會。
有名子爵の家柄、裕福な家、五指に入る成績、整った見た目、女生徒の圧倒的人気――『天は四物も五物も与えやがる!』そう毒づいた者がいたほどだ。 有名子爵的家世、富裕的家庭、進入前五名的成績、端正的外表、女學生中壓倒性的人氣——有著『老天爺太眷顧他了!』如此咒罵的人在的程度。
だが、彼は偽りなく、貴族だが魔力が少なく、魔導具があまり作れないことを告げてきた。 但是,他毫不虛偽,雖是貴族但魔力很少,告訴了我不怎麼做過魔導具。
魔導具研究会に入ったのも、父親から卒業後の商会立ち上げにあたり、『制作を担当してくれて、部下となるような魔導具師を探すように』そう勧められたからだという。 會加入魔導具研究會也是因為被父親如此勸說,畢業後要建立商會的話『就去尋找負責製作、能成為部下的魔導具師吧』這樣。
作れぬ魔導具を尋ねたところ、魔法効果付き魔導ランタンなど、魔力の少ない父が作っているものばかりだった。教本で必要とされる魔力数に届かないからと、挑戦してみたこともないらしい。 我問他做不出來的魔導具,淨是附帶魔法效果的魔導提燈等等,魔力很少的父親製作過的東西。因為達不到教科書上所需要的魔力數,似乎也沒有試著挑戰過。
「そこらへん全部、魔力制御がうまくできるなら作れるぞ」「那些全部,如果魔力控制做得好就能製作喔」
そう言った自分に、ひどく面食らった顔をし、それでいて銀の目を輝かせた。 面對那麼說的自己,一臉非常吃驚,然後閃耀著銀色眼睛。
こいつの面倒を見よう――カルロはそう決めた。 來關照這傢伙吧——卡爾羅如此決定。
昔の自分のように内で歯噛みしていたからではない。丸くなった銀の目がかわいかっただけだ。 不是因為像以前的自己一樣在內心悔恨著。只是瞪圓的銀色眼睛很可愛。
人に魔力制御を教えるのはなかなか難しかった。だが、努力家の後輩には、『できなければ方法を変えて再度やれ、できるまでやれ』そんな無茶な説明で通じた。 要教人魔力控制相當的困難。但是,努力家的後輩也以『做不到的話就換個方法再做一次,做到能做到為止』那樣胡來的說明來理解。
彼もまた、何度も爪を割りつつ繰り返し、針の穴に通すような制御を目指した。 他也再次以儘管割裂好幾次指甲也一再重複能通過針孔般的控制為目標。
結果、互いの合い言葉は『やればできる!』と、鍛錬をする騎士のようなことになっていた。 結果,彼此的口號就變成了做訓練的騎士『做就能辦到!』般的東西。
後輩に教えているからには負けられぬ――カルロは意地を込めてさらに魔力制御に励んだ。 因為教導了後輩而不能輸——卡爾羅下定決心更加勤勉於魔力控制。
四年間の意地は、板の穴の大きさを、ペンの太さから錐で開けた穴に、やがて毛糸ほどにした。 四年間的志氣,讓板子上洞口的大小從筆的粗細到用錐子開的洞,終於做到毛線左右的粗細。
父のような絹糸にならぬことを嘆きまくった夜、作業場の机に突っ伏して寝てしまった。 哀嘆無法成為像父親般的絹絲粗細晚上,我趴倒在工作區的桌子上睡著了。
翌朝、父が突然、魔力ポーションを一ダースくれた。 隔天早上,父親突然給了一打魔力回復藥。
『魔力制御がある程度できるまで待っていた』と、魔力の上げ方を教えられ、驚きつつも喜んだ。 說『我在等著你的魔力控制能做到某個程度』,我被告知提高魔力的方法,儘管吃驚卻也歡喜。
もっとも、父の言う『ある程度』は、比喩ではなかった。 本來父親所說的『某個程度』就不是比喻。
毛糸の太さの魔力を髪一本ほどに細くし、一本を二本に、四本を八本に――緻密に自由に魔力を操る父を、初めて魔導具師の師匠として尊敬した。 將毛線粗細的魔力弄細到一根頭髮的程度,將一根變兩根、四根變八根——縝密地自由地操作魔力的父親,第一次作為魔導具師的師傅尊敬著。
教えられてもまったくできず、修業にのたうつ日々が始まった。 我就算被教了也完全做不到,在修業中掙扎的日子開始了。
だが、修業の成果はそれなりにあった。 但是,修業的成果還是有的。
卒業式、カルロは魔導具研究会の顧問に向け、白い紙薔薇を五十、魔力で整列させて飛ばした。 畢業典禮,卡爾羅用魔力讓五十朵白色紙玫瑰列隊朝魔導具研究會的顧問飛去。
リーナ先生は驚きに目を見開いた後、今までで一番きれいな笑顔を自分に向けてくれた。既婚となっているのがつくづく残念であった。 李娜老師吃驚得張大眼睛之後,將至今為止最美麗的笑容轉向自己。我深切遺憾她已婚了。
驚きと笑いを交互に浮かべた仲間は、口を揃えて言った。 交互露出吃驚與笑聲的同伴異口同聲說了。
「カルロの『悪魔』!」「卡爾羅這個『惡魔』!」
真夜中の作業場、カルロは弟子が増えたことを一人酒で祝っていた。 深夜裡的工作區,卡爾羅一個人用酒慶祝著弟子增加了。
瓶からビーカーにこっそりと注ぐ赤ワイン、音を聞きつけた娘が起きてこないことを願いたい。 從瓶子裡輕輕地倒入紅酒進燒杯裡,真希望聽到聲音的女兒不會起來。
本日、正式にトビアスを弟子と決め、帰ってきた娘に『お前の兄弟子だ』と紹介した。 今天,正式決定收托比亞斯為弟子,對回來的女兒介紹為『妳的師兄』。
ダリヤの明るい緑の目は丸くなり、ほんの一瞬だけ不満を宿らせた。 妲莉雅明亮的綠色眼睛瞪圓,只有一瞬間眼裡寄宿著不滿。
競争心には縁遠いと思っていた娘が、『兄弟子』の言葉に反応した。カルロはそれに安堵した。 還以為跟競爭心沒什麼緣分的女兒,對『師兄』這個詞起了反應。卡爾羅對此安心了。
優しく温和な自慢の娘。だが、それ故に誰かに流されるのではと心配だった。 體貼溫柔自豪的女兒。但是,因此很擔心會隨他人起舞。
だが、魔導具への情熱の他に、魔導具師の意地もあるようだ。 但是,對魔導具的熱情以外,似乎也有魔導具師的志氣。
自分と同じく、そしておそらくはトビアスも同じく-- 與自己相同,然後恐怕托比亞斯也相同——
意地のある三人、案外うまくやっていけるかもしれない。二人の魔力は虹色の輝きを含み、一点の曇りもないまぶしさだった。 有志氣的三個人,或許意外會做得很順利。兩人的魔力蘊含彩虹色的光輝,耀眼得沒有一點陰影。
この先もずっと一切の陰を含むことなく、そのまぶしい魔力を輝かせてほしい。 希望將來也會一直不蘊含一切陰影,讓那耀眼的魔力閃耀。
願わくば兄弟子と妹弟子として助け合い、暮らしに根ざした魔導具を作っていってほしい。 但願兩人能作為師兄與師妹互相幫忙,希望兩人能製作基於生活的魔導具師。
すでに魔力に陰を落とした自分の、祈りのような願いだ。 是魔力已經蒙上陰影的自己祈禱般的願望。
「うちの弟子達には、しっかりした魔力制御を身につけてもらわんとな」「我家的弟子們,必須要好好掌握魔力控制」
魔導具科ではこれぐらい。普通の魔導具師であればこれくらい。王城勤めならばこれぐらい。 在魔導具科是這樣。普通的魔導具師是這樣。如果任職王城也是這樣。
言われる目安はあるのだが、あれは最低基準だ。そんなものを教えるつもりはない。 雖然有被說是目標,但那是最低基準。我不打算教那種東西。
限界なんぞ死ぬまでわからないのだ、自分で決めればいい。 我死都不知道所謂的極限,自己決定就好。
だが、師匠の自分が『ここまでできる』と判断した基準は、最低限、超えてもらいたいものだ。 但是,身為師傅的自己判斷為『能做到這裡』的基準是,想要超過最低限度的東西。
そして自分も二人に追いつかれぬように磨かねば--カルロはそう決意を新たにする。 然後自己也為了不被兩人追過而必須磨練——卡爾羅做出如此新的決定。
もっとも、その判断設定が恐ろしく高いレベルであることを、父を師匠としたカルロは生涯気づかず、弟子達もずっと知らず-- 本來,那個判斷設定等級高得可怕,以父親為師傅的卡爾羅一生都不會注意到,弟子們也一直不知道——
ただただ努力と研鑽を求める修業は、当たり前のこととして受け継がれていく。 僅僅只是要求努力與鑽研的修業,會作為理所當然的事繼承下去。
赤髪の魔導具師の修業が花開きはじめるのは、名を刻んだ魔導具が出はじめる頃。 紅髮魔導具師的修業開始開花,是在開始推出刻有名字的魔導具的時候。
その花が実るのは―一人前の魔導具師と、胸を張って名乗れる日である。 那朵花會結果是在——成為獨當一面的魔導具師與、充滿自信自稱的日子。
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一窺卡爾羅爸爸的過去!
為啥渣男又出現了Orz。